「いまさら聞けないID-POS超入門」の前半では、「そもそもPOSとは何か」についてお話してきました。後半では、ID-POSデータが従来のPOSデータとどう違うのか、またどのように活用できるのかを見ていきましょう。
ID-POSでできる3つのアプローチ
POSデータは「いつ」「何が」「いくつ」売れたのかがわかるデータです。一方の、ID-POSデータはそれらに加えてどの(ポイントカード)利用者に対して売ったのかという「誰が」という情報が紐づいています。この「誰に対して売った(誰が買った)」かがわかるという点から、小売業やメーカーで、大きくわけて次の3つのアプローチが主にされるようになりました。
(1)品揃えや店づくりに活かす
(2)商品づくりに活かす
(3)販売促進に活かす
では順番に見ていきましょう。
(1)品揃えや店づくりに活かす
「いつ」「何が」「いくつ」売れたかを正確に把握できるPOSデータが品揃えに活用されることが一般的になったということは、前半でお話したとおりです。さらに、ID-POSデータでは、「誰が」買ったのかがわかることによって、さまざまな「買われ方」の分析がされるようになりました。
たとえばあるお菓子は、「特定の顧客層に繰り返し買われる傾向がある」※1、「オーガニック食品を買う人は日用品でもオーガニック商品を好む傾向がある」※2、などなど。詳細な分析手法については本稿では割愛しますが、じつにさまざまな角度から「買われ方」の実態がわかるようになったのです。
こうして、売れ筋を残し、死に筋をカットするというシンプルな方法から一歩進んで、きめ細かな品揃えが可能になりました。たとえば、特定のファンがついている商品(これから売れそうな商品)や来店する回数が多い客層がよく買う商品はカットせず残す、といったことです。
また、同じお客がよく買う商品同士は近くの場所に陳列するといったように、買い物客によってより便利な店づくりをすることもできるようになったのです。
※1 このように「頻度」に注目した分析ができるのがID-POSデータの大きな特徴の1つです。
※2 「併買分析」と言います。同時併買(いわゆるバスケット分析)だけでなく、期間併買(あるお客が一定期間内にどのような商品を購入するのか)を分析できるのが、ID-POSデータならではです。
(2)商品づくりに活かす
このような「買われ方」の分析は商品づくりの現場でも活かされるようになりました。 たとえば、自社商品を繰り返し買ってくれているお客は多いだろうか? 自社商品を買うのをやめた人は次に何を買っているのだろうか? 商品をシリーズ展開しているけども、そのシリーズの商品を併せて買ってくれているだろうか? そもそも、どんな人※3が自社製品を買ってくれているのだろうか? などなど。
感覚的で作り手の視点に偏りがちな商品企画の現場に、ID-POSデータという購買データを持ち込むことによって、より消費者の嗜好に合ったものづくりをすることができるようになったのです。
※3 顧客の属性(若い女性など)については、ポイントカードの申請時に利用者が登録した情報(氏名だけでなく、住所、性別、生年月日などを登録することが多いでしょう)からわかります。
(3)販売促進に活かす
さらにID-POSデータは販売促進分野にも変化をもたらしました。従来の販売促進は「チラシ」や「割引クーポン」などまったく同じものを不特定多数の人々に届けることが当たり前で、現在もこの手法は広く使われています。
それでも、自分が普段まったく買わない商品カテゴリーのチラシや割引クーポンをもらっても、まるで興味がわきませんね。本来は、健康食品をよく買う人に、新しい健康食品の情報が届いたり、ベビー用品をよく買うような子育て中の人に、お得なおむつの割引クーポンが届いたら嬉しいはずです。
このような個々の顧客に合わせた販売促進が、ID-POSの「誰が」の情報を利用することによって可能になったのです。現在では、ダイレクトメール、レシートクーポン、メールやラインなど、さまざまな手段を通じて、このような販促が行われています。
消費が「多様化」した時代に必要なアプローチ
いずれのID-POSデータによるアプローチも、消費者の誰もがみな同じような商品を欲していた時代には無用のものだったかもしれません。しかし、消費が多様化した現代は、各々の消費者によりそったきめ細かなアプローチが必要になってきたのです。
モノがない時代からモノ余りの時代になったとき、POSデータが企業の成長を手助けしたように、単一的だった消費スタイルが多様化するなかで、ID-POSデータの活用は企業が成長するためのカギとなりそうです。